【数列】和分差分学Ex1「数列版『逆関数の積分』~部分和分と天井関数~」

数列版の"逆関数"を導入し、その和を逆関数の定積分と同様の手法で求めます。
以前に投稿した「和分差分学(シリーズ)」「逆関数の積分」が一つにつながる内容になっています。
※なお本記事は「Math Advent Calendar 2024」の12/19の記事になっております。
過去記事の紹介
本記事に関連する記事の紹介です。
ただし、これらをすべて読まなくても本記事は読めるようになっています。
(理解を深めるために読んでいただけるならうれしいです!)
1. 和分差分学
高校で学ぶ数列の和と階差数列をそれぞれ和分と差分として微分積分同様の諸性質を考察したシリーズです。
部分積分やマクローリン展開の数列版のような定理が登場します。
2. 逆関数の定積分
大学入試でもしばしば題材となる逆関数の積分の手法の紹介です。2通りの方法を紹介していますが、それらに共通するのは「置換積分」「部分積分」の両方を活用することです。
モチベーション
数列 (
) を
上の関数
としてみなします。
このとき が逆写像をもち、なおかつその定義域が
という条件を考えるとかなり"厳しい条件"となります。
単射性つまり の値が異なれば
の値が異なるという条件はまだしも、
全射性つまり が任意の0以上の整数をカバーできるというのは通常の数列ではなかなかありません。
そのため単なる逆写像として定義するのは現実的ではありません。
そこで、今回は「広義単調増加」という条件だけで「逆」数列を定義し、その定義が適合している(満たしてほしい性質を満たす)ことを検証します。
逆数列の定義と性質
は0以上の整数全体を表します。
本記事では数列 は0以上の整数で定義されるものとします。
ゆえに数列 は 写像
(
は複素数全体を表す)としてみなすことも可能です。
早速定義を与えます。
定義1(逆数列)
数列 (
)が広義単調な0以上の整数列
すなわち以下の条件を満たすとする。
- 任意の0以上の整数
について
である。
となる任意の
について
が成り立つ。
このとき の逆数列
を以下の等式で定める。
上記の定義から簡単に示せる逆数列の"特徴づけ"が複数あります。
補題2(逆数列の特徴づけ)
これらの定義もしくは特徴づけから以下の定理が得られます。
「満たしてほしい性質」の一つになります。
定理3(逆数列の性質)
数列 (
)は広義単調な0以上の整数列とする。このとき
の逆数列
について以下が成り立つ。
である。
を満たす任意の
について
が成り立つ。
(証明)
1.について
補題2の2.を用います。
とおきます。
このとき …(1) を満たします。
さらに ,
とおくと、
…(2)
…(3)
を満たします。
(1)より すなわち
…(4) が成り立ちます。
(4)と の単調性から
...(5)
さらに(2),(3),(5)より を得ます。
は整数であるから
となります。
以上より
2.について
とおきます。
このとき補題2の2.から を得ますが、
の単調性から
であり、
から
を満たす
の最大値を考慮すると
が言えます。
は整数であるから
となります。
したがって から
となります。
具体例
ここでは簡単に有名な数列の逆数列を求めてみましょう。
等差数列
で定義される
の逆数列の一般項は
で与えられます。
で定義される
の逆数列は1,1,2,2,3,3…となることから一般項は
で与えられます。
決して等差数列の逆数列はキレイな式とは言えません。
しかし天井関数と呼ばれるものを使うと別の表記が可能です。
実数 以上の最小の整数を
と書きます。
すると と表せます。
等比数列
で定義される
の逆数列は0,1,2,2,3,3,3,3,4,4,4,4,4,4,4,4,5,…となることから一般項は
で与えられます。
「指数」が絡む等比数列の逆数列に「対数」が出現することで逆関数の類似であることが一気に明らかになってきました。
逆関数と逆数列
これまでの例を一般化してみましょう。
命題4(逆関数と逆数列)
を実数全体
の部分集合で、
とする。
上で定義され実数値をとる関数
が以下の条件を満たすとする。
は狭義単調増加関数である。
は逆関数をもつ。これを
を表す。
このとき で定義される
の逆数列
の一般項は
と書ける。
ただし、 は実数
以上の最小の整数を表す。
(証明)
とおきます。
すると補題2の2.から を得ます。
はすべて整数であることから
と書けます。
すなわち が成り立ちます。
ここで が狭義単調増加であること、
は逆関数をもつことから
が成り立ちます。
したがって天井関数の定義から と書けます。
以上により となります。
(おわり)
たとえば とします。
は
で逆関数
をもちます。
ゆえに と書けます。
逆数列の和(部分和分の利用)
いよいよ逆関数の積分で部分積分を用いたように逆数列では部分和分を用いて、和を計算しようと思います。
なお、部分和分の詳細については下記の記事をご覧ください。
定理5(逆数列の和)
数列 (
)は広義単調な0以上の整数列とする。
このとき の逆数列
について以下が成り立つ。
1.
特に を満たすような
に対して以下が成り立つ。
2.
(証明)
のとき、部分和分を用いることで以下のように変形できます。
両辺に を足すことで
を得ます。
さらにこれは のときも成立します。
特に が成り立つとき、
定理3の2から
であり、
であるから
を得ます。
(おわり)
天井関数と数列の和
命題4の形で定義される数列 は任意の0以上の整数
に対して
を満たします。
したがって定理5の2.が適用されます。
すなわち
上で定義され実数値をとる関数
が
は狭義単調増加関数である。
は逆関数をもつ。これを
を表す。
上記の条件を満たすとき以下の等式が成立します。
たとえば とすると以下のようになります。
たとえば とすると以下のようになります。
書ききれなかったこととまとめ
- 今回は補題2の1を重視して定義を決めましたが、不等号の等号の有無やinfではなくsupで定義するなど微調整を加えることで類似の結果を得ることが可能です。最後までどの定義で行くか悩みました。
- 広義単調増加する0以上の整数列はPosetで記述することが可能です。そのためメビウスの反転公式と絡めることができそうでした。そこまでは今回は書ききれなかったので次の機会にしようと思います。
- 今回具体例として紹介した数列はすべて閉じた式つまり一般項が記述できているものにとどまっていますが、もちろん漸化式で記述されるようなものにも各命題や定理は適用できます。これも次の機会に触れたいと考えています。
ということで今回は部分和分といった和分差分学の知識を使いながら逆関数の積分の数列バージョンともいえる等式を作ってみました。まだまだ色々調べられそうなので機会があれば続きを書こうと思います。
それでは最後までお読みいただき誠にありがとうございました。