とぽろじい ~大人の数学自由研究~

高校数学から分かる新しい数学、大学で学ぶ数学を少しずつまとめていくブログです。ゆくゆくは本にまとめたいと思っています。

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【数列】和分差分学6「4乗の和(Σの4乗)、べき乗和の公式を表計算ソフト(EXCEL)を用いて求めよう」

今までとは毛色の違うタイトルです。

前回で本シリーズは一段落したので、今回はちょっとした数列のTaylor展開の応用例を紹介したいと思います。

 

定理の証明については前々回の記事をご参照ください。

 

math-topology.hatenablog.com

 

 

 

はじめに

今回は  a_{n}=n^{m} (  m 1 以上の自然数) の和の公式を作ります。

高校数学においては基本的には  m\leq 3 の範囲でしか公式は紹介されません。

(入試問題として  m=4 の場合が題材となることはあります。)

しかし、「一般化は出来ないのか」という素朴な疑問は自然なもので、様々な手法があります。

たとえばベルヌーイ数というものを用いたり、母関数の考え方を用いたり…。

これらについてはWikipediaを眺めるだけでも様々な情報があり、楽しめます。

さて、今回はせっかく数列のTaylor展開を紹介したので、これを用いて計算してみようという魂胆になります。

なお、表計算ソフトを使う、と書くとそれだけでも大変そうに思えるかもしれませんが、すぐにネットで検索できる程度の簡単な関数しか用いません。

 

 n^{m} のTaylor展開

定理を再掲します。  

定理(数列のTaylor展開)*1

任意の数列  \{ a_{n} \} について以下の等式が成り立つ。

a_{n}=\displaystyle\sum_{k=0}^{n} \frac{(\Delta^{k}a)_{0} }{k!} n^{\underline{k}}

が成り立つ。

 

 さて、この定理を使う上で重要なことは  (\Delta^{k}a)_{0} を計算できるかどうかです。

前回紹介した種々の例では、どれも容易に計算できていました。

しかし、今回の  a_{n}=n^{m} の形では計算は容易ではありません。まともに計算しようとすると  (\Delta a)_{n}=(n+1)^{m}-n^{m} なので展開しようにも二項展開が必要ですし、次のように展開せずに何度も差分をとっても項が膨れ上がります。

 (\Delta a)_{n}=(n+1)^{m}-n^{m}

 (\Delta^{2} a)_{n}=(n+2)^{m}-2(n+1)^{m}+n^{m}

 (\Delta^{3} a)_{n}=(n+3)^{m}-3(n+2)^{m}+3(n+1)^{m}-n^{m}

しかし、このことから一つの規則性が見えてきます。

 

そこで、まずは以下の補題を紹介しておきます。

補題1(数列の  k 次差分の展開)

任意の数列  \{ a_{n} \} 0 以上の整数  k について以下の等式が成り立つ。

 (\Delta^{k} a)_{n}=\displaystyle \sum_{i=0}^{k} (-1)^{k-i}\binom{k}{i}a_{n+i}

 

 証明は  k についての数学的帰納法で行います。

二項係数の等式  \dbinom{k}{i}= \dbinom{k-1}{i-1}+\dbinom{k-1}{i} を用いれば簡単にできますので、今回は省略します。

 

また以下のことを用意します。

補題2( n^{m} k 次差分)

 k \gt mのとき 

 \Delta^{k} n^{m}=0

このことは自明ではないので簡易的に証明を与えます。

(証明) 

 1 以上の自然数  d について

 \Delta n^{d}=(n+1)^{d}-n^{d} 

は二項展開により  d-1 次式となることが分かります。

 \Delta の線型性より、一般の  n d 次式に関しても同様のことが言えます。

したがって帰納的に  \Delta^{m} n^{m} は定数であると言えます。

定数列の差分は恒等的に  0 ですので

 k \gt mのとき 

 \Delta^{k} n^{m}=0

となります。

(証明終わり)

 

これらのことを用いると、今回の  a_{n}=n^{m} の形でも数列のTaylor展開は計算可能です。

このとき補題1により

  (\Delta^{k} a)_{0}=\displaystyle \sum_{i=0}^{k}(-1)^{k-i}\binom{k}{i}a_{i}=\displaystyle \sum_{i=0}^{k} (-1)^{k-i}\binom{k}{i}i^{m}

となります。

ここで重要なのは   (\Delta^{k} a)_{0} は和の形で与えられており不穏ではあるのですが、補題2により、実際のところ  k には、たとえば  m=4 のとき、  k\leq 4 という制約が付くため、簡単に計算ができるということです。

 

結果的に以下のように数列のTaylor展開が与えられます。

 

系1(  n^{m} のTaylor展開)

 n^{m}=\displaystyle\sum_{k=0}^{m} \frac{ \biggl( \displaystyle\sum_{i=0}^{k} (-1)^{k-i}\binom{k}{i}i^{m} \biggr) }{k!} n^{\underline{k}}

(証明)

数列のTaylor展開により 

 n^{m}=\displaystyle\sum_{k=0}^{n} \frac{ \biggl( \displaystyle\sum_{i=0}^{k} (-1)^{k-i}\binom{k}{i}i^{k} \biggr) }{k!} n^{\underline{k}}

ですが、補題2により

 k \gt mのとき 

 \Delta^{k} n^{m}=0

であること、また

 k \gt n のとき

 n^{\underline{k}}=0

であることを用いることで証明が完了します。

(証明終わり)

 

そして右辺の形なら和分が簡単にできるので

 

系2(  n^{m} の和分)

 \Sigma n^{m}=\displaystyle\sum_{k=0}^{m} \frac{ \biggl( \displaystyle\sum_{i=0}^{k} (-1)^{k-i}\binom{k}{i}i^{m} \biggr) }{(k+1)!} (n+1)^{\underline{k+1}}

 

 m に具体的な値を代入すると、和の記号における  k の範囲も定まります。

 

4乗の和

たとえば  m=4 のとき、つまり「4乗の和」を計算してみましょう。

系2より、

 \Sigma n^{4} =\displaystyle\sum_{k=0}^{4} \frac{ \biggl( \displaystyle\sum_{i=0}^{k} (-1)^{k-i}\binom{k}{i}i^{4} \biggr) }{(k+1)!} (n+1)^{\underline{k+1}}

ですが、手計算により

 \displaystyle\sum_{i=0}^{0} (-1)^{0-i}\binom{0}{i}i^{4}=0 

 \displaystyle\sum_{i=0}^{1}(-1)^{1-i}\binom{1}{i}i^{4}=1 

 \displaystyle\sum_{i=0}^{2}(-1)^{2-i}\binom{2}{i}i^{4}=14 

 \displaystyle\sum_{i=0}^{3}(-1)^{3-i}\binom{3}{i}i^{4}=36 

 \displaystyle\sum_{i=0}^{4}(-1)^{4-i}\binom{4}{i}i^{4}=24 

これにより

 \Sigma n^{4} =\displaystyle \frac{1}{2}(n+1)^{\underline{2}}+\frac{7}{3}(n+1)^{\underline{3}}+\frac{3}{2}(n+1)^{\underline{4}}+\frac{1}{5}(n+1)^{\underline{5}}

となり、因数分解をすることにより

 \Sigma n^{4} =\displaystyle \frac{1}{30}n(n+1)(2n+1)(3n^{2}+3n-1) 

 が得られます。

 

したがって、めでたし、めでたし…なのですが、係数の計算が手間ですね。

そこで、Taylor展開に戻って*2表計算ソフトでコンピューターに計算させることにします。

 

表計算ソフトで累乗の和の計算

 たとえば  m=6 のとき以下のように計算できます。

f:id:kfukui-math7:20201114230454p:plain

(このように簡単な関数で作っています。mの値を変えるだけでTaylor展開の係数を計算してくれます。もう少しスマートに書ける気もしますが…。)

 

上記の画像の計算より

 n^{6}= n+31n^{\underline{2}}+90n^{\underline{3}}+65n^{\underline{4}}+15n^{\underline{5}}+n^{\underline{6}}

となります。

 \Sigma n^{6} =\displaystyle \frac{1}{2}(n+1)^{\underline{2}}+\frac{31}{3}(n+1)^{\underline{3}}+\frac{45}{2}(n+1)^{\underline{4}}+13(n+1)^{\underline{5}}+\frac{5}{2}(n+1)^{\underline{6}}+\frac{1}{7}(n+1)^{\underline{7}}

これを因数分解すると

 \Sigma n^{6} =\displaystyle \frac{1}{42}n(n+1)(2n+1)(3n^{4}+6n^{3}-3n+1)

となります。

 

まとめ(副産物といろいろ)

数学的帰納法を用いずとも系2より  n^{m} の和分は  m の値によらず、 \dfrac{1}{2}n(n+1) を因数に持つことが証明出来たりもします。*3

 

・ベルヌーイ数を知っている人はピンとくることがあるかもしれません。

ja.wikipedia.org

上のwikipediaのページなども参考になるかもしれません。

 

・さて、今回は高校数学でも話題になる数列について和分を考えました。

ぜひとも今回紹介したことをもとに計算を試していただければ幸いです。

 

 

いったん本シリーズの連載は以上になります。

(また、紹介したいものが増えれば適宜追加いたします。)

和分差分は微分積分との類似として、すでに先人が触れてきたものです。

文献やウェブサイトでも和分差分を紹介しているものはあります。

しかし、私自身まとめながら新たな発見があったように思います。

そして、高校数学の知識以上のものを極力使わずとも新たに得られる知識があることを知っていただけたなら幸いです。

 

それでは、最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

 

*1:厳密にはMaclaurin展開と言うべきかもしれません。

*2:定義から係数が整数になることが分かるため。

*3:そもそもの構成に数学的帰納法を用いていることには目を瞑っています。