とぽろじい ~大人の数学自由研究~

高校数学から分かる新しい数学、大学で学ぶ数学を少しずつまとめていくブログです。ゆくゆくは本にまとめたいと思っています。

MENU

【関数】(単発)n次関数はn+1点でただ一つに決まるのか?「多項式の一致の定理」

今回はシリーズ物から離れまして、〇次関数と書かれるものについて考えます。

高校数学で初めて学ぶ関数といえば2次関数です。

2次関数を学ぶ上で練習問題として出てくるのが「3点が与えられ、その3点を通る放物線の式を答える問題」です。

 

 

2次関数の話から

(例)

2次関数 ax^{2}+bx+c のグラフが3点  (0,3), (1,6),(2,11) を通るとき、 a , b , c の値を求めよ。

 

この問題の答えは

 a=1 ,  b=2  c=3

つまり

 y=x^{2}+2x+3

となり、当然ながら答えはただ一つに定まります。

もちろん2点 (0,3), (1,6)だけなら、 y=2x^{2}+x+3 なども通りますから、不十分です。

 

これは必然なのでしょうか?

つまり3点を通る2次関数はただ一つなのでしょうか?

 

そして

2次に対して3点ですから、

 n 次に対して  n+1 点なのか?

というのがさらなる疑問になります。

 

今回はこれを多項式を用いて解決します。

 

【予備知識】

高校数学(数学ⅡBくらい)の知識があれば大丈夫です。

 

一般化と証明

まず、今回の疑問を定式化します。

2次関数でいうと、次のことが成り立つことを示すことになります。

 

2次関数  f(x),g(x)と異なる3実数  a,b,c について

f(a)=g(a) かつf(b)=g(b) かつ f(c)=g(c) ならば

すべての実数  x について  f(x)=g(x) が成り立つ。

 

さらにこれを一般化すると以下のようになります。

 

 

定理(多項式の一致の定理)

 n 次以下の関数  f(x) ,  g(x) と異なる n+1 個の実数  a_{i} \,\,(i=0, 1, 2,\dots n) について

f(a_{0})=g(a_{0})f(a_{1})=g(a_{1}) , … , f(a_{n})=g(a_{n}) ならば

任意の実数  x について  f(x)=g(x) が成り立つ。

 

 

 

早速ですが証明に移りましょう。

(証明)

 F(x)=f(x)-g(x) とおきます。

 f(x) ,  g(x) n 次以下の関数ですので、 F(x) n 次以下の関数になります。

また f(a_{0})=g(a_{0})f(a_{1})=g(a_{1}) , … , f(a_{n})=g(a_{n}) より、

F(a_{0})=0F(a_{1})=0 , … , F(a_{n})=0 となります。

 ここで因数定理により、 F(x)

 n+1 個の相異なる1次式  x-a_{0} x-a_{1} , ... ,  x-a_{n} を因数に持ちます。

したがって  F(x) は整式  G(x) を用いて

 F(x)=(x-a_{0})(x-a_{1})\cdots(x-a_{n})G(x) と書けます。

しかし、 F(x)  n 次以下であることから恒等的に  G(x)=0 となります。

したがって任意の実数  x について F(x)=0 となります。

すなわち任意の実数  x について  f(x)=g(x) が成り立ちます。

(証明終わり)

 

これにより、 n+1 点から定まる  n 次関数はただ一つということが結論付けられます。*1

 

部分分数分解への応用

さて、このまま終わってもよいのですが、高校数学でも多用する「部分分数分解」に多項式の一致の定理が応用できますので、最後に紹介しておこうと思います。

 

(例題)

 1 でも  2 でも  3 でもない任意の実数  x について

 \displaystyle \frac{1}{(x-1)(x-2)(x-3)}=\frac{a}{x-1}+\frac{b}{x-2}+\frac{c}{x-3}

が成り立つような実数  a b ,  c を求めよ。

 

いわゆる「恒等式」の問題です。

このままでは多項式ではないので両辺に  (x-1)(x-2)(x-3) をかけます。

 1=a(x-2)(x-3)+b(x-1)(x-3)+c(x-1)(x-2)

となります。

ここから、右辺の2次(以下)の式を展開して  x^{2} ,  x のそれぞれの係数,、定数項を比較することで  a ,  b ,  c を求めることが出来ますが、今回は多項式の一致の定理を用いましょう。

すると、3つの異なる値を代入して左辺と右辺が同じ値をとれば、両辺は一致することになります。

そこで代入する3つの値を選ぶのですが、元の式の分母を考えると、通常であれば  x=1,2,3 の3つの値は代入してはいけません。

しかし、今回はあえてこの3つの値を

 1=a(x-2)(x-3)+b(x-1)(x-3)+c(x-1)(x-2)

に代入します。

すると、

 1=2a

 1=-b

 1=2c

となり、簡単に

 \displaystyle (a,b,c)=(\frac{1}{2},-1,\frac{1}{2})

が得られます。

これでよいのか?と疑問が残りますが、多項式の一致の定理により

 1=a(x-2)(x-3)+b(x-1)(x-3)+c(x-1)(x-2)

 1 でも  2 でも  3 でもない任意の実数  x で成り立つことになりますので、

もちろん

 \displaystyle \frac{1}{(x-1)(x-2)(x-3)}=\frac{a}{x-1}+\frac{b}{x-2}+\frac{c}{x-3}

 1 でも  2 でも  3 でもない任意の実数  x でも成り立ちます。

よって大丈夫です。

 

流れをまとめると

多項式の等式が  x=1,2,3 で成り立つ

(多項式の一致の定理)

多項式の等式がすべての実数  x で成り立つ

多項式の等式が 1 でも  2 でも  3 でもないすべての実数  x で成り立つ

分数式の等式が 1 でも  2 でも  3 でもないすべての実数  x で成り立つ

 

となっており、本来は x の範囲外であるはぐれ者の  1,2,3 が結果に活躍しています。

もちろん実用的とは言えませんが、なぜ分母が0になるものを代入しても部分分数分解が実行できるか、の1つの解決にもなっています。*2

 

さいごに

部分分数分解以外にも多項式の一致の定理は応用例があります。

たとえば、それこそ複素関数論で出てくる一致の定理の多項式バージョンとして述べるなら、「ある区間で一致する n 次関数は実数全体で一致する」なども言えます。

 

さて、今回は単発の記事ということで多項式の一致の定理を扱わせてもらいました。時折、このような形で単発のライトな記事を投稿していきたいと思っています。

それでは最後まで読んでいただいてありがとうございました。

*1:今回は存在することは証明していません。あくまで"一意性"です

*2:ほかにも留数を考えるなど、複素解析を用いたものもあったりします。