三角関数の●倍角の公式と縁が深いチェビシェフ多項式と呼ばれるものがあります。
今回はそのチェビシェフ多項式が「双曲線関数」とも同じような関係があることを調べます。
まずチェビシェフ多項式についての紹介です。
()
で定まる関数列 について が成り立ちます。*1
この を第1種チェビシェフ多項式(以下、チェビシェフ多項式)と呼びます。*2
以前の記事では三項間漸化式の解を調べるためにチェビシェフ多項式を用いましたので、ぜひそちらも読んでみてください。(読まなくても今回の記事は問題なく読み進められます。)
さて、今回用いる双曲線関数を以下の形で導入しておきます。
( は自然対数の底を表します。)
なお、三角関数を用いると , により円 の媒介変数表示を構成できますが、双曲線関数を用いると , は双曲線 ( ) の媒介変数表示を構成します。
このように双曲線関数自体の話題も非常に興味深いですが、今回は深入りしません。
今回の主目的は以下の命題の証明です。
命題1(双曲線関数のn倍角の公式)
【予備知識】
高校数学(数学Ⅲまで)の知識があれば大丈夫です。
証明その1 加法定理の応用
補題2(加法定理)
, を実数とする。このとき以下の等式が成り立つ。
(証明は定義からすぐ分かるので省略します。)
さて、補題2において , とおき、辺々を足し合わせることで
となります。
したがって とおくと
が成り立ちます。
したがって , が成り立つことを仮定すれば、即座に を得るため、 , と合わせることで命題1が証明されます。
証明その2 対称式の利用
において , を代入することで
すなわち
となります。
以降は証明その1と同様にして命題1が証明できます。
いろいろな応用(置換積分や三項間漸化式の解の表現)
置換積分
次のような問題を考えます。
問題3(積分)
(1)は とおくことで
を得ます。
一方、(2)で同様の置換積分は出来ません。なぜなら となる実数 は存在しないからです。
そこで双曲線関数 が役に立ちます。(ただし、任意の実数 に対して なので(1)では役に立ちません。)
, となる が一意に存在しますので、この を用いることで
を得ます。
最後の値がシマりませんでしたが、ほとんど同じ要領で定積分の計算ができました。
三項間漸化式
こちらは簡単な練習問題としておきますが、冒頭で紹介した以下の過去記事の双曲線関数バージョンを考えることも出来そうです。過去記事では「判別式が負」の場合の話になっていますが、「判別式が正」の場合は双曲線関数で同様の議論を考えることができるというわけです。このあたりはオイラーの公式 と関連していることは明白でしょう。
まとめ
そこまで大きな発見はありませんでしたがチェビシェフ多項式は双曲線関数とも関連があるということが分かり、さらに置換積分や三項間漸化式で三角関数とチェビシェフ多項式が役立ったように双曲線関数でも役立つことが見えてきました。
チェビシェフ多項式に関しては数多くのトピックがあるので、それぞれで双曲線関数バージョンの議論を考えてみるのはいかがでしょうか。
それでは今回は以上になります。最後までお読みいただきありがとうございました。