とぽろじい ~大人の数学自由研究~

高校数学から分かる新しい数学、大学で学ぶ数学を少しずつまとめていくブログです。ゆくゆくは本にまとめたいと思っています。

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【関数】(単発)n倍角の公式は双曲線関数でも成り立つか「双曲線関数とチェビシェフ多項式」

三角関数の●倍角の公式と縁が深いチェビシェフ多項式と呼ばれるものがあります。

今回はそのチェビシェフ多項式が「双曲線関数」とも同じような関係があることを調べます。

 

まずチェビシェフ多項式についての紹介です。

T_{0}(x)=1

T_{1}(x)=x

T_{n+1}(x)-2xT_{n+1}(x)+T_{n}(x)=0 (n=0,1,2,\dots)

で定まる関数列  \{ T_{n}(x) \} について T_{n}(\cos\theta)=\cos (n\theta) が成り立ちます。*1

この T_{n}(x) を第1種チェビシェフ多項式(以下、チェビシェフ多項式)と呼びます。*2

 

以前の記事では三項間漸化式の解を調べるためにチェビシェフ多項式を用いましたので、ぜひそちらも読んでみてください。(読まなくても今回の記事は問題なく読み進められます。)

math-topology.hatenablog.com

 

さて、今回用いる双曲線関数を以下の形で導入しておきます。

 \cosh t=\dfrac{e^t+e^{-t}}{2}

 \sinh t=\dfrac{e^t-e^{-t}}{2}

( e自然対数の底を表します。) 

 

なお、三角関数を用いると  x=\cos t , y=\sin t により円 x^{2}+y^{2}=1 の媒介変数表示を構成できますが、双曲線関数を用いると  x=\cosh t , y=\sinh t は双曲線 x^{2}-y^{2}=1 (  x\ge 1 ) の媒介変数表示を構成します。

このように双曲線関数自体の話題も非常に興味深いですが、今回は深入りしません。

今回の主目的は以下の命題の証明です。 

 

命題1(双曲線関数のn倍角の公式)

 

n自然数t を実数とする。チェビシェフ多項式 T_{n}(x) について以下の等式が成り立つ。

 T_{n}(\cosh t)=\cosh nt

 

 

【予備知識】

高校数学(数学Ⅲまで)の知識があれば大丈夫です。

 

 

証明その1 加法定理の応用

 

補題2(加法定理)

\alpha , \beta を実数とする。このとき以下の等式が成り立つ。

\cosh(\alpha+\beta)=\cosh\alpha \cosh\beta +\sinh\alpha \sinh\beta

\cosh(\alpha-\beta)=\cosh\alpha \cosh\beta -\sinh\alpha \sinh\beta

 

(証明は定義からすぐ分かるので省略します。) 

 

さて、補題2において \alpha=(n+1)t , \beta=t とおき、辺々を足し合わせることで

\cosh (n+2)t+ \cosh nt=2\cosh t \cosh (n+1)t

となります。

したがって x=\cosh t とおくと

\cosh (n+2)t-2x \cosh (n+1)t+ \cosh nt=0 が成り立ちます。

したがって  T_{n}(\cosh t)=\cosh nt ,  T_{n+1}(\cosh t)=\cosh (n+1)t が成り立つことを仮定すれば、即座に  T_{n+2}(\cosh t)=\cosh (n+2)t を得るため、 T_{0}(\cosh t)=1 , T_{1}(\cosh t)=\cosh t と合わせることで命題1が証明されます。

*3

 

証明その2 対称式の利用

自然数 n および複素数 x , y について成り立つ等式

 x^{n+2}+y^{n+2}=(x^{n+1}+y^{n+1})(x+y)-xy(x^{n}+y^{n})

において x=e^{t} , y=e^{-t} を代入することで

 2\cosh (n+2)t=4\cosh t \cosh (n+1)t- 2\cosh nt

すなわち

 \cosh (n+2)t-2\cosh t \cosh (n+1)t+ \cosh nt=0

となります。

以降は証明その1と同様にして命題1が証明できます。

 

いろいろな応用(置換積分や三項間漸化式の解の表現)

置換積分

 次のような問題を考えます。

 

問題3(積分)

以下、n を2以上の自然数とする。

(1) \displaystyle \int_{-1}^{1} T_{n}(x) dx を求めよ。

(2) \displaystyle \int_{1}^{a} T_{n}(x) dx を求めよ。( a1 以上の実数 )

(1)は x=\cos t とおくことで

 \displaystyle \int_{-1}^{1} T_{n}(x) dx

=\displaystyle \int_{\pi}^{0} T_{n}(\cos t) (-\sin t) dt

=\displaystyle \int_{0}^{\pi} \cos nt \sin t dt 

=\displaystyle \frac{1}{2}\int_{0}^{\pi} ( \sin (n+1)t -\sin(n-1)t)dt

=\displaystyle \frac{(-1)^{n+1}-1}{(n+1)(n-1)}

を得ます。

 

一方、(2)で同様の置換積分は出来ません。なぜなら  \cos t \gt1 となる実数 t は存在しないからです。

そこで双曲線関数 \cosh t が役に立ちます。(ただし、任意の実数 t に対して \cosh t \ge 1 なので(1)では役に立ちません。)

 

  \cosh \alpha =a , \alpha\ge 0 となる  \alpha が一意に存在しますので、この\alpha を用いることで

 \displaystyle \int_{1}^{a} T_{n}(x) dx

=\displaystyle \int_{0}^{\alpha} T_{n}(\cosh t) (\sinh t) dt*4

=\displaystyle \int_{0}^{\alpha} \cosh nt \sinh t dt 

=\displaystyle \frac{1}{2}\int_{0}^{\alpha} ( \sinh (n+1)t -\sinh(n-1)t)dt*5

=\displaystyle \frac{1}{2} \left( \frac{1-\cosh(n-1)\alpha}{n-1} -\frac{1-\cosh(n+1)\alpha}{n+1} \right)

を得ます。

 

最後の値がシマりませんでしたが、ほとんど同じ要領で定積分の計算ができました。

 

三項間漸化式

こちらは簡単な練習問題としておきますが、冒頭で紹介した以下の過去記事の双曲線関数バージョンを考えることも出来そうです。過去記事では「判別式が負」の場合の話になっていますが、「判別式が正」の場合は双曲線関数で同様の議論を考えることができるというわけです。このあたりはオイラーの公式 e^{ix}=\cos x+i\sin x と関連していることは明白でしょう。

 

math-topology.hatenablog.com

 

まとめ

そこまで大きな発見はありませんでしたがチェビシェフ多項式双曲線関数とも関連があるということが分かり、さらに置換積分や三項間漸化式で三角関数とチェビシェフ多項式が役立ったように双曲線関数でも役立つことが見えてきました。

チェビシェフ多項式に関しては数多くのトピックがあるので、それぞれで双曲線関数バージョンの議論を考えてみるのはいかがでしょうか。

それでは今回は以上になります。最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

*1:数学的帰納法により簡単に証明できます。

*2:多項式の一致の定理」(過去記事参照)により \theta が"特殊"な値でなければ T_{n}(\cos\theta)=\cos (n\theta) を満たす T_{n}(x) は一意に定まります。今回は深入りしませんがこの辺りも興味深いトピックです。また、sinに関しては第2種チェビシェフ多項式が考えられます。これも深入りはしませんが今回の補題1から簡単に導くことは出来ます。

*3:三項間の漸化式および初期値である第0項および第0項が一致すれば一般項が一致する、という考え方と見ることもできます。

*4:\cosh tt に関して微分すると \sinht となります。

*5:補題2と同様に\sinh についての加法定理が作れます。