とぽろじい ~大人の数学自由研究~

高校数学から分かる新しい数学、大学で学ぶ数学を少しずつまとめていくブログです。ゆくゆくは本にまとめたいと思っています。

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【ベクトル】(単発) 成分表示されていなくても一瞬で体積計算する方法(内積利用)「四面体の体積公式」

 

高校数学におけるベクトル*1において四面体の体積を求めるには複数のステップを踏まないといけません。行列式を用いる方法もありますが、成分表示がされている場合に限られます。そこで今回は一般のベクトルに対して簡単に体積を求める公式を紹介します。

 

ベクトルを用いた体積公式

空間内の4点 O,A,B,C が四面体をなすとき、 \vec{a}=\overrightarrow{OA} ,  \vec{b}=\overrightarrow{OB} ,  \vec{c}=\overrightarrow{OC} とおくと、四面体 OABC の体積 V は以下の式で表される。

\displaystyle V=\frac{1}{6} \sqrt{  |\vec{a}|^{2}|\vec{b}|^{2}|\vec{c}|^{2} -(\vec{a}\cdot\vec{b} )^{2}|\vec{c}|^{2}-(\vec{b}\cdot\vec{c} )^{2}|\vec{a}|^{2}-(\vec{c}\cdot\vec{a} )^{2}|\vec{b}|^{2} +2(\vec{a}\cdot\vec{b} )(\vec{b}\cdot\vec{c} )(\vec{c}\cdot\vec{a} ) }

 

この公式はベクトルの「大きさ」「内積」という基本情報さえ与えられれば、それらを代入するだけで面積が計算できるという意味での非常にうれしさがあります。

また、これは高校数学でよく用いられる以下の「面積公式」の一般化とも言えます。

 

ベクトルを用いた面積公式

平面上の3点 O,A,B が三角形をなすとき、 \vec{a}=\overrightarrow{OA} ,  \vec{b}=\overrightarrow{OB} とおくと、三角形 OAB の面積 S は以下の式で表される。

\displaystyle S=\frac{1}{2} \sqrt{  |\vec{a}|^{2}|\vec{b}|^{2} -(\vec{a}\cdot\vec{b} )^{2} }

 

 

【予備知識】

ベクトル

線形代数(雰囲気だけ理解するうえでは必須ではありません。)

 

体積公式の証明

Step1 直交化

まずはシュミットの直交化法を用いて3つのベクトルが互いに垂直になるようにいじくります。

与えられた \vec{a},\vec{b},\vec{c} に対して

\vec{u}=\vec{a}

\displaystyle \vec{v}=\vec{b}-\frac{\vec{u}\cdot\vec{b}}{|\vec{u}|^{2}}\vec{u}

\displaystyle \vec{w}=\vec{c}-\frac{\vec{u}\cdot\vec{c}}{|\vec{u}|^{2}}\vec{u}-\frac{\vec{v}\cdot\vec{c}}{|\vec{v}|^{2}}\vec{v}

とおくと、

\vec{u},\vec{v},\vec{w} は互いに垂直になります。

(このことは内積を計算すると確認できます。)

しかしこれでは"スケール"が変わってしまう恐れがあります。そこで行列を用いましょう。

\vec{u}\vec{a} で表されること

\vec{v}\vec{a} および \vec{b} の線形結合で表されること

を踏まえれば 

 

f:id:kfukui-math7:20210727220230p:plain

 

上記のように行列式が1である下三角行列を用いて書けます。

この行列は行基本変形である「○行の◇倍を△行に足す」により単位行列になりますが、これは四面体の各面の等積変形に他なりません。

すなわち求める体積は \vec{u},\vec{v},\vec{w} で作られる四面体の体積に一致します。

 

Step2 計算

(細かい計算は省略気味ですので気になる方はぜひ自力で計算してみてください。)

Step1より \displaystyle V=\frac{1}{6}|\vec{u}||\vec{v}||\vec{w}| で計算できます。

\vec{u}=\vec{a}

\displaystyle \vec{v}=\vec{b}-\frac{\vec{u}\cdot\vec{b}}{|\vec{u}|^{2}}\vec{u}

\displaystyle \vec{w}=\vec{c}-\frac{\vec{u}\cdot\vec{c}}{|\vec{u}|^{2}}\vec{u}-\frac{\vec{v}\cdot\vec{c}}{|\vec{v}|^{2}}\vec{v}

および

\vec{u}\cdot\vec{v}=\vec{v}\cdot\vec{w}=\vec{w}\cdot\vec{u}=0

を利用すると

\displaystyle |\vec{w}|^{2}=|\vec{c}|^{2}-\frac{ (\vec{u}\cdot\vec{c})^{2} }{|\vec{u}|^{2} }-\frac{ (\vec{v}\cdot\vec{c})^{2} }{|\vec{v}|^{2} }

を得ます。

したがって

 \displaystyle V

\displaystyle =\frac{1}{6}|\vec{u}||\vec{v}|  \sqrt{|\vec{c}|^{2}-\frac{ (\vec{u}\cdot\vec{c})^{2} }{|\vec{u}|^{2} }-\frac{ (\vec{v}\cdot\vec{c})^{2} }{|\vec{v}|^{2} }  }

\displaystyle =\frac{1}{6}\sqrt{ |\vec{u}|^{2}|\vec{v}|^{2}|\vec{c}|^{2}-(\vec{u}\cdot\vec{c})^{2}|\vec{v}|^{2}-(\vec{v}\cdot\vec{c})^{2}|\vec{u}|^{2} }

\displaystyle =\frac{1}{6}\sqrt{ |\vec{a}|^{2}|\vec{v}|^{2}|\vec{c}|^{2}-(\vec{a}\cdot\vec{c})^{2}|\vec{v}|^{2}-(\vec{v}\cdot\vec{c})^{2}|\vec{a}|^{2} }…(2.1)

となります。

ここで、\vec{v} について計算を重ねると

 |\vec{a}|^{2}|\vec{v}|^{2}|\vec{c}|^{2}=|\vec{a}|^{2}|\vec{b}|^{2}|\vec{c}|^{2}-(\vec{a}\cdot\vec{b})^{2}|\vec{c}|^{2}

\displaystyle (\vec{a}\cdot\vec{c})^{2}|\vec{v}|^{2}=(\vec{a}\cdot\vec{c})^{2}|\vec{b}|^{2}-\frac{(\vec{a}\cdot\vec{b})^{2}(\vec{a}\cdot\vec{c})^{2}}{|\vec{a}|^{2}}

\displaystyle (\vec{v}\cdot\vec{c})^{2}|\vec{a}|^{2}=(\vec{b}\cdot\vec{c})^{2}|\vec{a}|^{2}+\frac{(\vec{a}\cdot\vec{b})^{2}(\vec{a}\cdot\vec{c})^{2}}{|\vec{a}|^{2}} -2(\vec{a}\cdot\vec{b})(\vec{b}\cdot\vec{c})(\vec{c}\cdot\vec{a})

となるため(2.1)にこれらを代入することで証明が完了します。

(証明終)

 

例題

問題

空間内の4点 O,A,B,C が四面体をなすとする。  \vec{a}=\overrightarrow{OA} ,  \vec{b}=\overrightarrow{OB} ,  \vec{c}=\overrightarrow{OC} について

 |\vec{a}|=3 |\vec{b}|=3 |\vec{c}|=5 

 \vec{a}\cdot\vec{b}=8 \vec{a}\cdot\vec{b}=10 \vec{c}\cdot\vec{a}=14 

が成り立つとき四面体 OABC の体積を求めよ。

(解法と解答) 

体積公式に代入すればすぐに体積が \dfrac{1}{6} だとわかります。

 

まとめ

ベクトルを用いた四面体の体積の公式が高校数学で出てこないので作ってみました。

シュミットの直交化法を四面体の等積変形の定式化として応用したところがポイントかと思います。

それでは最後までお読みいただきありがとうございました。

 

*1:3次元実ベクトル空間