とぽろじい ~大人の数学自由研究~

高校数学から分かる新しい数学、大学で学ぶ数学を少しずつまとめていくブログです。ゆくゆくは本にまとめたいと思っています。

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【数列】(単発) 生物の絶滅条件をモデル化して考えよう「ロジスティック写像にゅうもんへん」

太郎:数学って役に立たないよね。
花子:それは暴論だよ。生物学にも役に立っているんだよ。

みたいな会話文をどこかで目にするかもしれない時代がやってきました。*1

これは冗談ではなく、"数理"生物学という領域があるほど、数学をガンガン使っていく生物学があるわけです。

その中で生物の個体数の世代ごとの変化をモデル化したものとして「ロジスティック写像」というものがあります。

x_{n+1}=rx_{n}(1-x_{n})

"いかつい"名前の割には漸化式であるということと、係数を変えるだけで様相が変わっていくため、大学入試ではひそかに出題頻度が高い内容になっていたりします。

今回は

①生物の個体数のモデルを漸化式で表すこと

②ロジスティック写像(①のモデルをもとにした形)の極限を調べること

を通して

「生物が絶滅する条件」をうっすらと考えていきましょう。

 

なお、今回は「カオス」の話には深入りしません。

ロジスティック写像の"入門編"として、結果的に極限が初等的に調べられるものを扱います。

予めご了承ください。

 

【予備知識】

高校数学(数学Ⅲまで)の知識があれば大丈夫です。

(むしろ高校数学までの学習者向きの記事になっています。)

 

 

生物の個体数のモデル

次のようなモデルを考えましょう。

 

問題1

n を正の整数とする。

生物Aを第0世代, 第1世代, 第2世代,  第3世代, …, 第 n 世代,…で観察する。

生物Aは第0世代において個体数は1とする。

生物Aは各個体ごとに各世代で

「次の世代に"繁殖"して2個になる」

「次の世代に"死滅"して0個になる」

のどちらかを選択する。

「繁殖」を選択する確率を p , 「死滅」を選択する確率を 1-p とする。 

( p は世代、個体に依らない定数)

n 世代で生物Aが絶滅せずに1個以上生存する確率を  a_{n} とおいたとき、

a_{n+1}a_{n} で表すとどうなるか?

 

この問題で気を付けるべきところは、たとえば第10世代で20個の個体があったときに第11世代の個体数は40個もしくは0個の2択になるのではなく、20個の個体それぞれが「繁殖」と「死滅」を確率 p もしくは  1-p で選択するということです。

 

それでは早速問題の解答を考えましょう。

 

(解答)

まず第1世代で生物Aが生存する確率は第0世代の個体(1個)が繁殖する他ありません。

したがって

a_{1}=p

となります。

n+1 世代で1個以上生物Aが生存するためには、まず第1世代で生存しなければ話になりません。

そのため「第1世代で生存(この時点で個体数は2)し、かつ残りの n 世代を2個の個体のいずれか一方由来の個体が生存する」ことが第 n+1 世代で生物Aが生存する条件になります。

そこで、いわゆる"余事象"の考え方を用います。

残りの n 世代で2個とも子孫を含めてどこかで絶滅する確率は (1-a_{n})^{2} となります。

したがって

a_{n+1}=a_{1}\{ 1-(1-a_{n})^{2} \}

すなわち

a_{n+1}=pa_{n}(2-a_{n})

と書けることになります。

(解答終わり)

 

なお、冒頭で紹介した漸化式

x_{n+1}=rx_{n}(1-x_{n})

とは少し違いますが、a_{n}=2x_{n} とおけば同じ形になります。

(今回は a_{n} のまま極限を考えていこうと思います。)

 

生物の絶滅条件を極限で考える

先ほど導いた漸化式をもとに問題1における生物Aの生存or絶滅は以下のような問題2のように記述できます。

 

問題2

n を正の整数とする。

a_{1}=p

a_{n+1}=pa_{n}(2-a_{n})

で定まる数列 \{ a_{n}\} の極限はどうなるか?

ただし 0\le p\le 1 とする。

 

解答に入る前に以下のグラフを観察しておきましょう。

(赤は y=x のグラフ、青は y=px(2-x) のグラフです。)

f:id:kfukui-math7:20210206092705p:plain      f:id:kfukui-math7:20210206092813p:plain

f:id:kfukui-math7:20210206092938p:plain      f:id:kfukui-math7:20210206093041p:plain

\{a_{n}\} がある値 a に収束すると仮定した場合、aa=pa(2-a) を満たします。

つまり2つのグラフ y=x y=px(2-x) の共有点がかかわってきますが、どうやら p=\dfrac{1}{2} を境に様子が変わりそうです。

そこで p の範囲で場合分けして解答を構成してみましょう。

 

(解答)

グラフからも分かるように

 a_{1}=p と漸化式から数学的帰納法を用いれば、任意の正の整数 n について

 0\le a_{n} \le p …(2.1)

が成り立ちます。

 

0\le p\lt \dfrac{1}{2} のとき

不等式(2.1)から特に  0\lt 2-a_{n}\le 2 が成り立ちますので

 a_{n+1}\le 2pa_{n}

という不等式が得られます。

この不等式を繰り返し用いることで

 0\le a_{n} \le (2p)^{n-1}a_{1}

という不等式が新たに得られますが、

 0\le 2p \lt 1 ですので、最右辺は 0 に収束します。

したがってはさみうちの原理により

 \displaystyle \lim_{n\to \infty} a_{n}=0

となります。

 

 \dfrac{1}{2}\lt p\le 1 のとき

大学入試で良く用いるテクニックを使いましょう。

少々天下り的ですが  a=2-\dfrac{1}{p} とおきましょう。

この a a=pa(1-a) および  0\le a \le 1 を満たします。*2

このとき

a_{n+1}=pa_{n}(2-a_{n})

a=pa(2-a)

から

 a_{n+1}-a

 =pa_{n}(2-a_{n})-pa(2-a)*3

 =pa_{n}(2-a_{n})-pa(2-a_{n})+pa(2-a_{n})-pa(2-a)

 =p(a_{n}-a)(2-a_{n})-pa(a_{n}-a)

 =p(a_{n}-a)(2-a_{n}-a)

 =p(a_{n}-a)\left(\dfrac{1}{p}-a_{n}\right)

 =(a_{n}-a)(1-pa_{n})

(途中で a=2-\dfrac{1} {p} としています。)

まとめると

a_{n+1}-a=(a_{n}-a)(1-pa_{n}) …(2.2)

となりますが、

この等式(2.2)と a_{1}=p\ge a から

( \displaystyle p-a=p-2+\frac{1}{p}=\frac{(p-1)^{2}}{p}\ge 0 となります。)

 数学的帰納法を用いるとすべての正の整数  n に対して

 a\le a_{n} \le p

が成り立つことが分かります。

この不等式から

 1-p^{2} \le 1-pa_{n} \le 1-ap=2(1-p)

を得ますが、(2.2)から

 a_{n+1}-a \le 2(1-p)(a_{n}-a)

という不等式が得られます。

この不等式を繰り返し用いることで

  0\le a_{n}-a \le \{2(1-p)\}^{n-1}(a_{1}-a)

という不等式が新たに得られますが、

 \dfrac{1}{2}\lt p \le 1 より

 0\le 2(1-p) \lt 1 ですので

 \dfrac{1}{2}\le p\le 1 のときと同様、はさみうちの原理により

 \displaystyle \lim_{n\to \infty} (a_{n}-a)=0

すなわち

 \displaystyle \lim_{n\to \infty} a_{n}=2-\frac{1}{p}

を得ます。

 

さて、これでめでたしめでたし…といきたいのですが、残念ながら p=\dfrac{1}{2} のときだけがどちらの場合分けにも当てはめることが出来ず残ってしまいました。

そこでこの場合だけは別個で考えましょう。

a_{n+1}=\displaystyle\frac{1}{2} a_{n}(2-a_{n})a_{1}=\dfrac{1}{2}

について、これまでと同様に数学的帰納法を用いれば、正の整数 n について

0\lt a_{n} \le \dfrac{1}{2}

が即座に得られます。

特に a_{n}0 にはならないので、式変形により

\displaystyle \frac{1}{a_{n+1}}=\frac{2}{a_{n}(2-a_{n}) }

すなわち

\displaystyle \frac{1}{a_{n+1}}-\frac{1}{a_{n} } =\frac{1}{2-a_{n} }

となります。

0\lt a_{n} \le \dfrac{1}{2} より

\dfrac{1}{2-a_{n}} \gt \dfrac{1}{2}

となることから

\displaystyle \frac{1}{a_{n+1}}-\frac{1}{a_{n} } \gt \dfrac{1}{2}

を得ます。

この不等式を繰り返し用いる(  n=1,2,3,\dots の場合を順次足し合わせていく)ことで  n\ge 2 のとき

\displaystyle \frac{1}{a_{n}}-\frac{1}{a_{1} } \gt \dfrac{1}{2}(n-1)

つまり

\displaystyle \frac{1}{a_{n}}\gt \dfrac{1}{2}(n+3)

を得ます。

これより最終的に

 0\lt a_{n} \lt \dfrac{2}{n+3} (  n\ge 2

となるため、はさみうちの原理により

 \displaystyle \lim_{n\to \infty} a_{n}=0

が分かります。

 

以上の結果をまとめると

0\le p\le \dfrac{1}{2} のとき  \displaystyle \lim_{n\to \infty} a_{n}=0

\dfrac{1}{2}\le p\le 1 のとき  \displaystyle \lim_{n\to \infty} a_{n}=2-\frac{1}{p}

となります。

(解答終わり)

 

結論と余談

問題2の結果を言語化しておくと…

 

繁殖確率が \dfrac{1}{2} 以下のときは生物Aが1個以上生存する確率は 0 に収束し、言い換えれば絶滅する確率が 1 に収束していきます。

 

繁殖確率が \dfrac{1}{2} より大きいときは生物Aが1個以上生存する確率は収束しますが 0 ではありません。

言い換えれば生存(絶滅)する確率が明言できるということになります。

 

(余談を雑多に。)

・ロジスティック写像を単に漸化式と見て極限を考える場合、今回の関係式の形であれば、初項の値をいじっても今回の結果は変わりません。

 

・大学入試の設問の流れ*4をある程度想定したので、やや冗長となりましたが、「有界で単調な数列は収束する」を使えばあっさりと収束の説明は出来ます。

 

p=1, 2 のときは置換により一般項が出せます。

 

・関数  y=px(2-x) はリプシッツ連続ということから不動点と絡めることもできます。(今回の"解答"のアイデア不動点をもとにしています。)

 

・連続版として微分方程式であるロジスティック「方程式」があります。*5

 \dfrac{dy}{dx}=ry(1-y)

こちらは変数分離で簡単に解けます。

 

・カオスについては以下のWikipediaの記事をご参照ください。

ja.wikipedia.org

 

 

今回は「大学入試」を強く意識してロジスティック写像を扱いました。

数学を用いて生物のモデルを考えることができるというのが少しでも伝わればと思います。

それでは最後までお読みいただきありがとうございました。

 

*1:2021年度より大学入試共通テストが実施されましたが、数学では会話文が出題されました。

*2:むしろそうなってくれるように a を定めています。

*3:これは a_{n}-a を共通因数に持つはずです。そこでここからは恣意的な変形をします。

*4: (1)で不等式を証明して…みたいな設問です

*5:むしろロジスティック方程式から差分をとって離散化するとロジスティック写像になりますね。