とぽろじい ~大人の数学自由研究~

高校数学から分かる新しい数学、大学で学ぶ数学を少しずつまとめていくブログです。ゆくゆくは本にまとめたいと思っています。

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「代数的トポロジーのロードマップ」という名の自己紹介

今回は今更ながら自己紹介をします。ただ自己紹介をするだけではつまらないので「代数トポロジーの学習をするために学んだもの」を軸に紹介したいと思います。読んだ本も載せていきます。ただ、あくまでも私が学んだものですので、一例として捉えていただければうれしいです。

 

 

下積み時代(大学1年生~大学2年生)

大学に入学して間もないころ、まだ代数的トポロジーを専門とすることを決めていなかったころですが、この頃の学習で代数トポロジーの学習につながったものを中心に紹介します。

 

微分積分学

 微分積分の知識を使うというよりも、ε-δ論法などを通して数学の用語の基本を吸収した経験、今後長い付き合いとなる「連続」をきちんと定式化して学んだり、基礎体力が作られたようなイメージです。

 大学1年生の初期の講義で「デデキント切断による実数の定義」を学んだときは衝撃と感動に包まれたことを思い出します。

 

線型代数

 代数学の入門編のような立ち位置と捉えていました。今思うと"抽象"ベクトル空間を数ベクトル空間と同一視する考え方などは代数的トポロジーに通ずるものがあったのだなと気づかされます。

 

③集合と位相

 代数的トポロジーの「トポロジー」の部分、もっと言うと"フィールド"である位相空間連続写像を学びました。ちなみに代数的トポロジーと区別するために「ジェネトポ(general topology)」と呼ばれたりします。分離公理周辺の定理などは時折確認しながら使っていたため「長い付き合い感」があります。

上の「集合・位相入門(松坂和夫)」で学習しました。基礎から丁寧に書かれているのでお勧めの一冊です。

 

群論

 代数的トポロジーの「代数」部分です。群論→環論→体論とつながる最もベースとなる部分ですね。様々な分野において「有限アーベル群の構造定理までは学習していることが好ましい」と具体的な要求が言われることもあります。シロー群など単独でも十分楽しめます。

 

多様体

 いわゆる「微分幾何学」の入門編です。大学1年生のときに自主ゼミ(講義ではなく学生が自主的に集まって実施する勉強会)に参加して学習したことを思い出します。ここからつながる「deRhamコホモロジー」が初めての(コ)ホモロジーとの出会いでした。代数的トポロジーにも関連が深い分野です。

 

⑦その他もろもろ

 環論や体論は最終的に活用したイメージはありませんが、非常に楽しかった思い出があります。特にガロア理論は「角の三等分問題」や「5次以上の方程式の解の公式の非存在」など興味を引くテーマがあって"そそられた"思い出があります。

 不等式評価は苦手で解析寄りのことはあまりしませんでしたが、関数解析や測度論も非常に興味深かったです。

 

初心者時代(大学3年生~4年生)

この頃から学習内容が「代数的トポロジー寄り」になってきました。必要な武器を徐々にそろえていくようなイメージでした。

 

⑧代数的トポロジー(特異ホモロジーなど)

多様体論同様、自主ゼミで指導してもらいながら学習しました。可微分多様体としてではなく位相空間として「球面」「射影空間」をとらえたり、「CW複体」と出会ったり、土台ができていったような時期です。「スペクトル系列」との出会いは衝撃的でした。最初は全然使いこなせませんでしたが、こんな計算方法があるなんて…と震えていました。

参考文献はいくつもありますが、よく使った本をいくつか紹介します。

 

 

絶版ですが西田吾郎先生の「ホモトピー論」は未だに愛用しています。

 

ホモロジー代数

「蛇の補題(snake lemma)」や「9項補題(nine lemma)」など面白い名前の補題が多くありますが、代数的対象が矢印(写像)で結びついた列、特に完全列を武器にする代数的トポロジーでは必須の分野です。正直、気が付いたらある程度まで学んでいたという記憶しかないほど自然に学んでいました。というよりも学ばないといけないという思いが強かったと思います。

 

圏論

 ある程度、種々の分野を学んだあとに学習すると「伏線回収」を実感する分野です。たとえば「帰納極限」という言葉は群論でも位相空間論でも出てきますが、これらが統一的に定義される様は舌を巻きました。また学ぶ前まで当たり前と思っていた「写像は元(要素)によって決まる」という感覚が打ち砕かれ、「普遍性によって射が伸びる」といった図式を操る感覚に書き換わっていく、不思議な分野でもありました。

 代数的トポロジーのためには学習必須の分野です。なぜなら「空間」と「代数」をつなぐものを明示してくれるのが圏論だからです。

 

 

微分幾何学、モース理論

大学院修士時代の研究に使ったというわけではありませんが、微分幾何学の中で代数的トポロジーが現れるモース理論を学んだことは発想を豊かにしてもらえたようなイメージです。Bott-Tuのモース理論でも最後の方は安定ホモトピーの話があり、代数的トポロジーの知識を深められた気がします。

⑫その他いろいろ

他にもリー群と表現論や位相的K理論など、様々なものにアンテナを張っていた時期でもあります。これらも学びなおせたら良いなあと時折思います。

大学院生(修士)時代

いよいよ代数的トポロジーを本格的に学習し、教官の指導の下で研究も体験できた時期です。正直なところ自分の感覚としては、まだまだ「初級者」です。ただ見える景色が一気に増えたのも事実です。

 

⑬有理ホモトピー(代数的トポロジー)

 

math-topology.hatenablog.com

 上の記事でも紹介した通り、空間のねじれをそぎ落とすこと(有理化)により、球面のホモトピー群を計算しきるなど、多くの対象のホモトピー不変量を単純に計算できるようにする手法です。結果的に「有理数係数の代数」を対象としたことで「線型代数だー」となることが増えました。

 

⑭LSカテゴリー(代数的トポロジー)

 LSカテゴリーは「定義は簡単なのに計算が難しいホモトピー不変量」として知られています。ホモトピー不変量は「一致しなければホモトピー同値ではない」と断言するための基準(criterion)でもあります。そのため、どうにか計算しようという姿勢が随所に現れることになります。

 以下の記事で不定期連載としてLSカテゴリーとは何たるかを紹介していますのでぜひこちらもご覧ください。

 

math-topology.hatenablog.com

 

⑮モデル圏

 有理ホモトピーでは「有理化された空間」と「ある代数モデル」を同一視することで計算を簡単にしていました。この同一視はまさに圏論の考え方です。ただ、どんな圏でもホモトピーを考えられるわけではないため、ホモトピーが考えられる"都合の良い"空間を持ち出す必要があります。それがモデル圏になります。圏論よりもルール(制約)が増えたことで、できること(図式操作)を増やしています。

 このあたりになると「この本を読んだ」という感覚はほとんど消えており、常に複数の数学書を積みながら学習していた記憶があります。

 

⑯モデル圏におけるLSカテゴリーとその応用

 大げさに言えば「今までの集大成」です。モデル圏でLSカテゴリーを考え、その結果を有理ホモトピーに持ち帰るということを繰り返していました。

 

今と「まとめ」

 気ままに気になったこと(もちろん数学)を勉強しています。ただ現在は社会人として数学教育に携わりながらの勉強なので趣味の域は出ていません。とはいえ「ちょっとarXiv覗いてみよう」と軽い感覚でプレプリントを読めるのは学生時代の積み重ねの結果とも言えるので、「数学やっててよかった」とよく感じています。

 

 さて、今回は懐古しながら「代数学トポロジーを学ぶ人の例」を紹介しました。正直個人差はあると思いますし、私自身書き忘れたことがあるような気がしてなりません。ただ、いろいろな学習が結果的につながっています。ぜひ寄り道しながら学習してみてください。